東京都新規感染者データに関する考察

 

「はっきりとした効果が見られ始めている」

菅首相は2月2日緊急事態宣言延長の記者会見で、東京都の新規感染者数を示してこう発言された。

 

東京都新規感染数7日移動平均(2020.11.1 - 2021.2.1)

東京都下の病院に勤務している私の実感としては、このひと月周辺の状況に左程劇的な改善は見られない。果たして本当に感染者数は減ってきているのだろうか?

 

うちの病院は発熱外来を設置しており年末から問い合わせが相次いでいた。急激な感染拡大を受けての緊急事態宣言の発出で一気に検査希望者が増えると身構えたものの、実際には問い合わせ件数は減少していった。
程なくして保健所の業務逼迫を理由に濃厚接触者の追跡を取りやめたとの報道があり、なるほどと合点した。

 

保健所の混乱ぶりは日々目にしていたので致し方ない対応かと思ったが、緊急事態宣言発出と前後して検査体制が大幅に変更となることとなり、解除の基準となるデータなどをどのように補正するのだろうかとの不安を感じた。

 

そのため、体制変更によるデータの変化がどのように検証されるのかを調査していたところ、Youtubeで以下の報道をたまたま目にすることとなる。

www.youtube.com

 

FNNの報道で、番組中追跡体制変更に関して以下のような発言が紹介される。
「東京都の担当者は、これまでも保健所の業務ひっ迫している中で行っていたので、調査件数が極端に減ることはない。ほぼ影響はない。」

 

にわかには信じられない内容だが、なるほど都としてはデータを補正する考えはないらしいということだけは伝わってきた。

 

そこで自分なりに公開されている直近の感染数データの変容を分析してみることとした。


使用したデータは、東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトおよび@tritongurashiさんが公開されている下記サイトのものを参考とし、感染者数7日移動平均にて考察した。

bit.ly

 

保健所の追跡体制は、ハイリスクの高齢者を中心に対象者を絞るというものであったため、新規感染者数に占める60代以上の方の割合を2020.11.1から2021.2.1までプロットしてみる。

 

東京都新規感染数に占める60代以上の割合(2020.11.1 - 2021.2.1)

すると上図のように、それまで15-20%の範囲でゆるやかに右肩下がりに見えていたグラフが、1月8日付近を境に急激に右肩上がりに変化しているように見える。


11月1日から1月8日の間、20%を超えたのは12月3日の20.02%ただ一日だけであるが、右肩上がりに転じて以降の1月19日からは常に20%以上をキープしている。

 

このデータを説明する要因として
(1) 緊急事態宣言を受け50代以下の大幅な行動変容が実現し、感染者の割合に変化が生じた
(2) 追跡体制の変更により検査の母集団の構成が変化した
の二点が考えられるのではないかと思料する。

 

飲食店の営業時間短縮、テレワークへの切り替え等で(1)の要因が作用した部分はあると思われるが、過去のトレンドとの大きな相違は(2)の要因による影響も排除できないのではと考えられる。


そこで、本来の母集団であれば60代以上の感染者が20%程度に収まると仮定し、新規感染者数を推計したものをプロットしてみる。

 

60代以上割合を20%と仮定した場合の感染数推計(2020.11.1 - 2021.2.1)
グラフ中のグレー線が公表値で、赤線部分が推計値となる。


例示として、2月1日の60代以上の感染者数239人が全体の20%と考えると、50代以下の感染者推計値は956人で全体としては1,195人が新規感染者数となる。
しかし公表値は50代以下が579人、全体数は818人となっている。

 

もし母集団の仮定が正しいとすると、2月1日はこれまでであれば確認されていたはずの50代以下の新規感染者377人が顕在化せず市中に潜伏したことになる。
ステージ3への移行基準の一つが新規感染者数500人とのことなので、推計値であればまだ道半ばという印象だ。


病院では、医師が検査を勧めても断る方が数多くおられる。実感としては、日々陽性者として発表される数は氷山の一角であり、実際のところどの程度なのかは分からない。

 

ただ、公表される数値により様々な政策が決断され、それによって人生を左右される方々が多数存在することを考えると、データの取り扱いには十分な配慮が必要ではないかと思料する。

 

以上が素人による簡単な考察です。
もし私の錯誤等があればご指摘いただけると幸いです。


最後に、本記載は特定の方を非難する等の目的で行ったものではありません。
私の周辺の方は、皆最善を尽くすよう日々努力をされています。
どうか一日も早くこの困難を克服し、当たり前であった日常を取り戻せるよう願い、私も微力ながら努力します。